Column: 人の「退き際」

人には「退き際」というのがある。それはどんな人でも該当し、学生の退き際は卒業、社会人の退き際は退職、人生の退き際は「死」だ。この中で必然にして起こるのは「死」だが、他においても時機来れば皆それに従わざるを得ない。ここではそうした「退き際」について少々お話をしたい。

「退き際」が組織、社会または世界に影響を及ぼすのは、人物が偉大であるとき、または絶大な権力を保持しているときだ。彼らは、あるときは自分が偉大であるがゆえに退き際を誤り、いつまでも自らに影響力があると自負し、結果、周囲を混乱させる。または、絶大な権力を失いたくがないゆえにあえて退かず、自らを退けようとする勢力があるならば、権力を以て排除しようとする。

こんな例がある。日本共産党書記長・初代委員長・議長を歴任して、2007年に亡くなった宮本顕治氏について、元日本共産党最高幹部で評論家の筆坂秀世氏は次のように述べた、「どんなにカリスマ性を持った人物でも、自分の退き際までは分からなかったようだ。」

私の懸念はこの筆坂氏の言葉に集約されている。AppleのCEOであるSteve Jobs、彼は若くしてAppleを創始し、ここ数年だけにおいても、iPod、iTunes Store、iPhoneなど、コンピュータのみならず、様々なジャンルの成功者になろうとしている。彼が偉大で、かつカリスマ性を備えた世界でも希有な経営者であることは間違いない。Appleファンの殆どが彼を愛していることも分かっており、私もその一人に他ならない。彼のプレゼンを超えるものはいないとも思う。それほど彼の持つ影響力・存在感というのは強い。


1月初旬、彼は公開書簡において、ホルモンバランスの悪化により体重が激減しており、療養は春までかかることを明らかにした。その翌日のMacworldにおける同社の基調講演は、ワールドワイドプロダクトマーケティング担当上級副社長のPhilip Schillerが完全に指揮をとり、Steve Jobsは会場に姿を現さなかった。

そして本日、Appleは、Steve Jobsが社員に送ったメールを公表。症状が想定以上に複雑だったこと、療養のため6月末まで休職すること、その間の業務をCOOのTim Cookに代行させる旨が書かれている。この発表を受けてAppleの時間外取引の株価は急落し、一時取引停止まで至った。

このニュースはファンの間でも話題となる。大半の意見は「療養して復帰して欲しい」というものだ。気持ちは分かる。前述の通り、Appleファンの大半はSteveのファンだ。彼の主導なくしてAppleなしという意見もある。だが私は少々異なる。つまり「退き際」の問題なのだ。どんなに優れた人物にも「退く」時はやって来る。あとはその人物が判断するだけだ。このことはSteve自身もファンも分かっている。彼は書簡で「自らがCEO業務不能に陥った場合、真っ先に取締役会に報告する」と述べている。ファンも、彼が癌の手術を受けたあたりから、後継者について様々な憶測を語っている。


引退が適切に行われればいいと思う。私は無責任に「早く良くなってAppleに戻ってね」などとは、ゆめゆめ言えない。Steveが好きで、これからも彼の基調講演を見る機会があればどんなに嬉しいことか。だが、その代償が、例えば株主にとっての株価の下落、あるいはユーザーにとっての製品展開への支障などの場合、そのような状態を私は全く期待しない。

彼が病気になる、彼が療養する、これで株価が下がるほどに、彼の社会的影響力は高いのだ。彼はCEOを続け、重要案件に対しては関与すると述べている。春までに回復すると公表した僅か1週間後に休職を発表した。そしてニュースは駆け巡る。自身の身体のこと、そして影響力は彼が一番わかっているはずだ。私は、彼が最高の「退き際」を見つけ、速やかに、かつ華々しく引退することを希望している。

Comment

Appleの象徴
である、Steve無くして現在のアップルは、あり得なかった。
将来もそうであると思う。
Steve不在の時代からのユーザーはそう感じていると思う
マイクロソフト、ヤフーとは違う
株価の上下などは本来どうでもよいし、そうしてきたから
こその今のアップルでしょう。
Steveの引き際はアップルの引き際かもしれません。
  • 2009/01/16 20:15
  • job
  • URL
  • Edit
>jobさん
私は世代ではないのでSteveがAppleに復帰後にいかにしてAppleが立ち直ったかは文章でしか理解していませんが、会社である以上、しかもトップが特別な存在である以上、CEOとしてSteveが後継者を選ぶ段階だと思います。ミイラ・形骸化していつまでもCEOに君臨し続けるのは本望ではないでしょうし。

Steveの退き際がAppleの退き際にならないようにすることは何よりSteveが望んでいることだと思います。そしてそれを考える時間は存分にあったことでしょう。製品を売っている会社である以上、ユーザーに責任をもつべきなのは、言うまでもありません。

体重激減のなか2時間ものプレゼンを行うSteveを見るのはもう勘弁・・・。WWDCまでにある程度回復し、プレゼンの場で地位を譲ることが最良だと思います。
はじめまして、

退き際というのは、私も考えました。ただ現状、報道の醜い記事、ヘッジファンドの悪行等考えた上、SJは此処では引けないと思います(体調が許せる限りで)。SJは愛される反面、敵も多く作って来ました。ここ数週間、SJとアップルに対する反応はゴシップの枠を超えています。なんか、SJを生き埋めにしてやろうという感じです。

スムーズに次世代の人材(後継者)を確立すると同時に、SJはアップルのマーケットに於ける地位をもう一段階上げる仕事が残っていると思います。健康を取り戻し、”one more thing"が蘇ることを願っています。

マックと出会って30年
MAC Plusに始まり、ずっとThink Differentを教えてくれたのがMACでありSteve Jobsです。
人生において、多くの商品を通じて自己表現できたことはとても偉大です。
アイディアが形になり、そしてプレゼンする時、彼の姿は最高級です。
彼が我々に伝えたかったこと。そして学んだこと。ワクワクしたこと。すべてはマックがあったからこそでした。
マックユーザはみんなマックが好きです。それ以上にSteveが好きです。我々に夢と希望を与え続けてくれました。
世界中の多くのマックユーザがその思想に共感しSteve Jobsを支えてきました。
きっと私が死ぬまでマックはそばにいてくれることでしょう。
彼が我々に伝えたかったこと。
それは自己表現する大きなツールと感動を与えてくれたこと。

今、彼は闘病中です。
彼の後継者がSteveの表現しきれなかったことを商品化し、さらなる進化するAppleを我々は支えていきましょう!
そして、彼の健康復帰を祈って。。いまはそっとしてあげましょう!
  • 2009/01/20 02:58
  • Neptune
  • URL
いよいよ26年目が始まります。
1984.1.24 Macintoshは世界に向けて旅立ちました。
今日は25歳の誕生日だよ。おめでとう!Macintosh
いよいよ26年目のスタートだよ。


日本時間では昨日のことのように思われるが。
  • 2009/01/25 01:15
  • URL
>boxerconanさん
コメントありがとうございます!
お返事遅れて申し訳ないです・・・>みなさま

おっしゃる通り、ある話、ない話、色々な噂が流れますが、まさにCEO自身に社会的影響がある所以でしょうね。ただ、明らかに悪意を伴う批判などは論外としても、今回の発表を受けて、米国のSESでは、企業の役員の健康状態を株主に公表すべきか否かの議論まで発展しています。そうした流れも考慮し、企業としての利益と社会的責任のために彼と取締役会が判断すべきだと思います。


>Neptuneさん
そういうご意見もある意味正しいと思います。ファンゆえの感情です。フィルのキーノートではやはり物足りないと感じるのも確かです。ただし株主に損害を与えるような対応(今回の1月上旬の発表からMWSF後の休職等)は避けるべきでした。事実を公表すべきか、沈黙すべきか、どちらかにして欲しいですね・・・。


>唯さん
CMがよみがえります・・・。今年もSnow Leopardを中心にガンガン行って欲しい!
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